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水銀は地球の地殻によく見られる天然の金属元素です。自然界では、辰砂(硫化第2水銀)として存在する事が多い。
元素記号は“Hg”と表されます。「水の銀」を意味するギリシャ語に由来するラテン語“hydrargyrum”を略し、Hgとなりました。
物理特性
原子番号 | 80 |
原子量 | 200.59 |
融点 | -38.9℃/234.3K |
沸点 | 357℃/630K |
導電率 | 0.0106/m・Ohm |
熱伝導率 | 7.8W/m・K |
比重 | 13.6g/cm3@273K |
蒸気圧 | 0.16Pa@293K |
主に水銀は工業・商用用途で広く使用されています。
水銀の大部分は赤色の硫化物(辰砂:HgS)として存在し、これを加熱する事で、水銀蒸気が発生します。それを冷却凝縮させることで水銀を精製できます。
エジプトの墳墓や中国の殷の遺跡の彩色に辰砂を主成分とした塗料が使用されていました。出土品が数多く見つかっています。
また、水銀は不老不死の薬の原料として、中国の始皇帝など歴代の皇帝にも愛用され、顔料としても使用されていました。
日本における歴史上有名な水銀の利用は、奈良時代の東大寺の廬舎那仏(大仏)建立時の金メッキ塗装です。
金と水銀のアマルガムを大仏(材質:銅)の表面に塗布し、加熱することで水銀が蒸発し、金メッキを完成させたようです。一説では大仏の完成に使用された水銀は2トンを超え、その際に発生した水銀ガスの吸引により多数の死者がでたと言われています。
古代日本では水銀の価値は金や銀よりも高価であったとされ、水銀を制するものが政権を制するとさえ言われる程の貴重品でした。
一説では空海 (弘法大使) は中国の唐に渡った際に、銅や水銀鉱脈の発見方法を学んで帰国したとも伝えられており、全国における鉱物資源の産出地と空海ゆかりの場所が数多く一致しているとも言われています。
また、あのニュートンも水銀による不老不死の研究を真剣に手掛けていたようです。
参考文献
私たちが生活する自然環境下では、様々なところに水銀が蓄積されています。また、それらは大気中への放出、大気中からの沈着などにより循環しています。
水銀の循環と蓄積の様子を動画で視聴できます。
便利な反面、水銀の健康被害についてもクローズアップされるようになりました。
特に有名な、熊本県水俣市にて発生した水俣病は、世界的な公害問題として注目を集めました。
工場排液中に含まれた有機水銀 (メチル水銀) が水俣湾へ流入し、 プランクトン, 小魚, 大型魚へと、湾内の食物連鎖の中で、 水銀の体内濃縮, 蓄積が進んだ結果、これを食べた猫や人に水俣病の症状が現れました。(症状:精神や神経疾患)
メチル水銀 (MeHg) は腸管から、金属水銀蒸気は肺から人体に容易に侵入します。
MeHgはシステイン (アミノ酸の一種) に結合し、必須アミノ酸であるメチオニンに似た構造の複合体を形成。
次に、アミノ酸トランスポーターを介して脳や胎児などの組織に組み込まれます。
その結果、神経系に損傷を与えたり、筋力低下、発話のゆがみ、筋肉の協調性の低下、手, 足, 口の“しびれ”の感覚などの症状を引き起こします。
引用元
水銀は、以下の3つの種類に分類する事ができます。
これらの種類によって、人体へ与える作用または、影響が変わってきます。水銀の中には、殆ど毒性を示さないものもあります。
種類 | 元素記号 | 主な使用目的と特徴 | 毒性 | |
金属水銀 | Hg | ソーダ工業、蛍光管、冷陰極蛍光ランプ (CCFL)、血圧計、体温計、整流器、リレー接点、アマルガムによる金採掘、メッキ、歯科充填剤 (石油、石炭、天然ガス、シェールガスなどにも含有) | アマルガム中毒、蒸気を多量かつ長期間の吸入により水銀中毒を引き起こす可能性がある | |
無機水銀 | 硫化水銀 | HgS | 辰砂、顔料、塗料、朱肉 | 殆ど無害であり体内に入っても短期間で排出される |
酸化水銀 | HgO | 水銀電池、殺菌剤、防腐剤、結膜炎薬 | ||
塩化第1水銀 | Hg2Cl2 | 下剤、利尿剤 | ||
塩化第2水銀 | HgCl2 | 塩化ビニール製造、消毒薬 | 強い毒性 | |
有機水銀 | アルキル水銀 | メチル基 (CH3-)、エチル基 (C2H5-) などのアルキル基 (CnH2n+1-) と水銀が結びついた有機水銀化合物の総称 | ||
(1) メチル水銀 | CH3HgX | 種子殺菌剤、アセチレン誘導体への触媒 (化合物として塩化メチル水銀、臭化メチル水銀、水酸化メチル水銀、酢酸メチル水銀、硝酸メチル水銀などがある) 脂溶性であり生物濃縮を受けやすい毒物であり、水俣病の原因ともなった。 | 神経中枢を冒す強い毒性 | |
(2) ジメチル水銀 | C2H6Hg | 毒物学実験 無色で僅かに甘い香りを持つ可燃性の液体 |
最も強い神経毒のひとつ | |
(3) エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム | C9H9HgNaO2S | ワクチン用防腐剤 自閉症の原因のひとつとして疑いが議論されている |
殺菌作用 | |
(4) ジエチル水銀 | C4H10Hg | 毒物学実験 無色で僅かに甘い香りを持つ可燃性の液体 水俣病の原因物質のひとつ |
極めて強い神経毒性 | |
酢酸フェニル水銀 | CH3COOHgC6H5 | 農薬用殺菌剤 現在は農薬としての使用は禁止されている |
強い毒性があり体内に入ると腎臓障害を引き起こす |
一般家庭における、取扱いが多い水銀含有製品、蛍光灯と体温計を例にとり、ご家庭内で、破損した際の対処法を紹介します。
掃除を行う前に、まず 避難と換気が重要です。
水銀体温計の場合、蛍光灯とは少し対処が異なります。以下の禁止事項を読んで対処しましょう。
引用元
“水俣条約”とよく耳にしますが、正式名称は「水銀に関する水俣条約」と言います。
水銀の採掘・使用・排出や廃棄、製造 その他等を包括的に規制する国際条約を言います。
水銀及び水銀化合物の人為的な排出から、人の健康及び環境を保護する事を目的としています。
昭和31年(1956年)頃に、水俣病(中枢神経疾患)が発生。
12年後の昭和43年に厚生省から、水俣病の原因物質は水銀(メチル水銀)であると見解が発表されました。
これを受け、国連環境計画(UNEP)は、2001年に地球規模の水銀汚染に係る活動を開始。
2009年2月:第25回UNEP管理理事会で、水銀によるリスク削減のための法的拘束力のある文書(条約)を制定。
政府間交渉委員会(INC : Intergovernmental Negotiating Committee)を設置して2010年に交渉を開始しました。
その結果、2013年までにとりまとめを目指すことが合意されました。
2013年1月:政府間交渉委員会第5回会合(INC5)において、国際的な水銀条約に関する条文案が合意されました。
条約の名称が「水銀に関する水俣条約」に決定されました。
同年10月7-11日:熊本市及び水俣市で、本条約の、外交会議及びその準備会合が開催。
60か国以上の閣僚級を含む約140か国・地域の政府関係者+他、計1000人以上が出席し、全会一致で採択され92ヶ国が条約へ署名されました。
そうして、2017年8月16日に本条約は発効されました。
水銀及び水銀化合物の人為的な排出から人の健康及び環境を保護することを目的としています。 また、水銀のライフサイクル『産出』, 『貿易』, 『使用』, 『排出, 放出』, 『管理, 保管』の全てを初めて規制対象とした点で過去の国際水銀規制条約 (ロッテルダム条約, バーゼル条約など) とは一線を画したものとなっています。
水銀を使った製品の製造, 輸入, 輸出の禁止 電池や一定含有量以上のランプ, 化粧品など、禁止製品のリストに掲載された水銀添加製品は、2020年までに製造, 輸出入が禁止されます。
品目 | 例外 | 我が国では |
電池 | 水銀含有量2%未満のボタン型亜鉛酸化銀電池, ボタン型空気亜鉛電池 | 乾電池は1992年に水銀使用停止、水銀電池は1995年に生産停止。ボタン型電池は回収しリサイクルされる。 |
スイッチ及びリレー | 監視, 制御装置に用いられる超高精密キャパシタンス, 損失測定ブリッジ、高周波RFスイッチ及びリレーで、水銀含有量20mg以下のもの | 水銀スイッチ及びリレーは特殊用途に使用されてはいるが、国内で製造される自動車には使用されていない。 |
一般照明用蛍光ランプ, 高圧水銀ランプ, 電子ディスプレイ用冷陰極ランプ, 外部電極蛍光ランプ | 一定含有量以下の一般照明用電球型, 直管型蛍光ランプ, 一定含有量以下の電子ディスプレイ用冷陰極ランプ (CCFL), 外部電極蛍光ランプ (EEFL) | 蛍光管の中に含まれる水銀量は1975年代の約50gから、2005年には約8mg (40Wタイプ) に減少。 |
肌の美白用石鹸及びクリームを含む化粧品 (水銀1ppm超) | 効果的, 安全な代替防腐剤がない場合に、水銀を防腐剤に使用している眼部化粧品。 | 水銀の化粧品への使用は1974年に禁止されている。 |
農薬, 非農薬用殺生物剤, 局所消毒薬 | なし | 消毒剤への水銀使用は1973年に、農薬への水銀使用は1974年に禁止。 |
非電化の計測機器 (気圧計, 湿度計, 圧力計, 温度計, 血圧計) | 水銀フリー代替品がない場合に、大型装置に取り付けられたもの、または高精度測定に使用されるもの。 | 体温計や血圧計は、現在は電子式が普及しています。 |
下記附属書Dに記載された関連施設等を対象として「BAT/BEP等による大気への排出削減等対策を実施」と記述されており、今後、処理プロセス中の水銀濃度の挙動調査や最終排気ガス中の連続監視の必要性が高まると予想されます。
〈附属書D〉水銀及び水銀化合物の大気への排出に係る特定の発生源の一覧表
参考文献
一般的な水銀の測定方法は、原子吸光法と原子蛍光法の2種類に分けられます。
原子吸光法による測定装置は図の様な構造が一般的で、水銀ランプから発生した光が、吸収セル内を通り抜け、光電管へ受光される配置をとります。
サンプル(測定対象)に含まれていた金属水銀は、吸収セル内(=水銀ランプの光路上)に運ばれ、セル内を通るランプの光を吸収します。金属水銀の吸収によって減衰した光(I1)と、減衰される前の入力の光(I0)を比べた時の比(吸光度)を計算する事で、水銀量を求める事ができます。
上記の様な測定方法を、原子吸光法といいます。
〇:高濃度の水銀測定に適しています。
×:原子蛍光法に比べ、干渉成分の影響を受けやすい。
原子吸光法の特徴が“吸光度”の観測であるのに対して、原子蛍光法の特徴は“蛍光”の観測が特徴的です。
金属水銀から発せられた蛍光は、光電子倍増管で受光され、最終的には、その光(蛍光)が電気信号に変換されます。出力された電気信号をもとに、水銀量を求める事ができます。
上記の様な測定方法を、原子蛍光法といいます。
~光電子倍増管の役割~
金属水銀から発せられる蛍光はとても微弱であり、正確な水銀量の測定には、その光から得られる信号を増幅する必要があります。光電子倍増管はその役割を担っています。
光電子倍増管に内在する、ダイノード(電極)の働きによって、最終的に増幅された信号が出力され、測定が可能になります。
〇:低濃度の水銀測定に適しています。(原子吸光法10倍の感度)
×:高濃度の測定に適していません。
前項では、 原子吸光法と原子蛍光法の2種類の方法を紹介してきましたが、これらの測定方法には、サンプル(測定対象)から金属水銀を抽出する工程が必要になります。
“加熱気化方式”と“還元気化方式”の2種類があります。
試料ボート内のサンプルに対し加熱分解を行って、金属水銀を抽出する測定方式になります。
〇:有機物, 無機物、または複合材料 等を測定する場合は、煩雑な試料分解を要しますので、加熱気化による測定が好まれます。
×:メモリー効果(水銀の履歴)が発生し易い為、ppb~ppmオーダーの様な広い濃度範囲を測定する場合、安定した水銀測定には工夫が必要になります。
試験管に入ったサンプルに対し、複数の試薬を滴下する事で、酸分解させ、還元剤-塩化スズ(Ⅱ)による還元により、金属水銀を抽出する方式になります。
〇:一般的には加熱気化に比べ、多くの試料量を測定できるので、低濃度測定に適しています。
×:固体サンプルの場合、前処理(試料分解)を行って均一溶液を得る必要があり、サンプルに適した前処理を選定する必要があり煩雑な作業を要します。
前述してきた通り、測定方法(原理)や測定方式は、メリット/デメリットがそれぞれあります。従って、サンプル(測定対象)によって測定方法と測定方式の組み合わせが、装置選定で非常に重要です。
※可搬性(測定現場での水銀測定)や、サンプリング方法 要求感度, 等を考慮した上で選定頂く必要があります。
人の健康の保護に関する環境基準
対象 公共用水域
総水銀:0.0005mg/L以下
アルキル水銀:検出されないこと
総水銀:「環境省告示第59号付表1」に示された方法
アルキル水銀:「環境省告示第59号付表2」に示された方法
地下水の水質汚濁に係る環境基準
対象 地下水
総水銀:0.0005mg/L以下
アルキル水銀:検出されないこと
総水銀:「環境省告示第59号付表1」に示された方法
アルキル水銀:「環境省告示第59号付表2」に示された方法
土壌の汚染に係る環境基準
対象 土壌
総水銀:0.0005mg/L以下(検液中)
アルキル水銀:検出されないこと(検液中)
総水銀:「環境省告示第59号付表2」に示された方法
アルキル水銀:「環境省告示第59号付表3」または「環境庁告示第64号付表3」に示された方法
排水基準の排出基準
対象 特定施設を有する事業場(特定事業場)から排出される水
総水銀:0.005mg/L以下
アルキル水銀:検出されないこと
総水銀:「環境省告示第59号付表2」に示された方法
アルキル水銀:「環境省告示第59号付表3」に示された方法
対象 埋立地からの浸出液による最終処分場の周縁の地下水の水質への影響の有無を判断することができる地下水、又は地下水集排水設備により排出された地下水
総水銀:0.005mg/L以下
アルキル水銀:検出されないこと
総水銀:0.0005mg/L以下
アルキル水銀:検出されないこと
総水銀:「環境省告示第59号付表2」に示された方法(環境大臣が定める方法)
アルキル水銀:「環境省告示第59号付表3」に示された方法(環境大臣が定める方法)
産業廃棄物の埋立処分に係る判定基準
対象 産業廃棄物(燃え殻又はばいじん、汚泥、指定下水汚泥、鉱さい、特別管理産業廃棄物を含む)
総水銀:0.005mg/L以下
アルキル水銀:検出されないこと
対象 排ガス
水俣条約の 対象施設 | 大気汚染防止法の 水銀排出施設 | 施設の規模・要件 (以下のいずれかに該当するもの) |
排出基準(μg/Nm3) | ||
---|---|---|---|---|---|
新規 施設 |
既存 施設 |
||||
石炭火力発電所 産業用石炭燃焼 ボイラー | 石炭専焼ボイラー 大石炭混焼ボイラー |
|
8 | 10 | |
小型石炭混焼ボイラー | 10 | 15 | |||
非鉄金属(銅、鉛、亜鉛及び工業金)製造に用いられる精 錬 及び 焙 焼 の工程 | 一次施設 | 銅又は工業金 |
金属の精錬の用に供する焙焼炉、焼 結炉(ペレット焼成炉を含む。)及び煆焼炉/金属の精錬の用に供する溶鉱炉(溶鉱用反射炉を含む。)、転炉及び平炉:
金属の精製の用に供する溶解炉(こしき炉を除く。):
銅、鉛又は亜鉛の精錬の用に供する焙焼炉、焼結炉(ペレット焼成炉を含む。)、溶鉱炉(溶鉱用反射炉を含む。)、転炉、溶解炉及び乾燥炉:
鉛の二次精錬の用に供する溶解炉:
亜鉛の回収の用に供する焙焼炉、焼結炉、溶鉱炉、溶解炉及び乾燥炉:
|
15 | 30 |
鉛又は亜鉛 | 30 | 50 | |||
二次施設 | 銅、鉛又は亜鉛 | 100 | 400 | ||
工業金 | 30 | 50 | |||
廃棄物の焼却設備 | 廃棄物焼却炉 (一般廃棄物/産業廃棄物/下水汚泥焼却炉) |
|
30 | 50 | |
水銀含有汚泥等の焼却炉等 | 水銀回収義務付け産業廃棄物又は 水銀含有再生資源を取り扱う施設 (加熱工程を含む施設に限る。) (施設規模による裾切りはなし。) |
50 | 100 | ||
セメントクリンカーの製造設備 | セメントの製造の用に供する焼成炉 |
|
50 | 80 |
「環境省告示第94号」に示された方法
対象 作業環境(空気中)
水銀および無機化合物:0.025mg/m3
※硫化水銀を除く
固体もしくは液体捕集し、液体捕集は吸光光度分析方法又は原子吸光分析方法、固体捕集は原子吸光分析方法
特定事業場からの下水の排除の制限に係る水質の基準
対象 特定施設を有する事業場(特定事業場)から排出される水
総水銀:0.005mg/L以下
アルキル水銀:検出されないこと
総水銀:「環境省告示第59号付表2」に示された方法(国土交通省令・環境省令で定める方法)
アルキル水銀:「環境省告示第59号付表3」に示された方法(国土交通省令・環境省令で定める方法)
水質基準に関する省令
対象 水道により供給される水
総水銀:0.0005mg/L以下
「厚生労働省告示第261号 別表第7」に示された方法
底質中の化学物質等の濃度を把握する際に活用されることを目的としている
対象 底質
有害大気汚染物質(継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれがある物質で大気の汚染の原因となるもの)の環境大気中における濃度の実態の把握を目的としている
対象 大気
工場又は事業所から排出される排水の試験方法について規定されたもの
対象 排水
排ガス中のガス状水銀を分析する方法について規定されたもの
対象 排ガス